研究 種の豊富さのパターン

ランダム群集モデル

生態学事典から

ランダム群集モデル

多種が関係しあう複雑な群集における個体数動態の一般的性質を明らかにするため、種間相互作用、自己増殖率、死亡率、種内競争係数などのパラメータをランダムと仮定する数理モデルをさす。大自由度非線形力学系で表されることが多い。1970年代における、GardnerとAshbyによる数値解析[1]と、その微分方程式版に対するMay のランダム行列理論を用いた理論解析[2]は、一般的なランダム群集モデルにおける全種共存解の局所安定条件を導いた。これにより、種内競争係数に対して群集の複雑性に関わるパラメータ(種数やランダム種間相互作用の分散および結合度)がある臨界値を超えると、全種共存解が不安定化することが理論的に示された。この「群集の複雑性と安定性の相反関係」は、「多種が共存する複雑な生態系は単純な生態系よりも安定である」という1960年代までの野外研究による描像に再考を促し、その後の生態学研究に大きな影響を与えた。これまでに、局所安定性だけでなく系の大域的な動態に関する理論研究も行われてきているが、一般に多種からなるランダム群集は永続的には存続できず、ほとんどの種が絶滅して、少数種からなる系しか残らないことが示されている。そのため、自然界においては、全く相関のないランダム種間相互作用ではなく、何らかの構造をもった種間関係が進化することにより、複雑な生態系が安定化すると考えられている。そのような構造に関して、さまざまな多数種の共存機構が提案されている。また、群集の安定性に関して、全種共存解の局所安定条件以外にもさまざまな基準が検討されている。最近では、ランダム群集モデルにおいても、捕食・被食関係が支配的な群集の場合は、任意の多数の種が動的安定性を保ちながら共存する場合があることが示されている。

[1] Gardner, M.R. and Ashby, W.R., "Connectance of large dynamic (cybernetic) systems: Critical values for stability", Nature, vol.228, pp784-784 (1970)

[2] May, R.M., "Will a large complex system be stable?", Nature, vol.238, pp413-414 (1972)

索引項目: 複雑性と安定性

本項目文中に含まれる他の項目:種間相互作用、多数種の共存機構、群集の安定性、食物網

ランダム行列

 行列の各要素がある確率分布に従う乱数で与えられるものをランダム行列と呼ぶ.特に、対応する対角要素が独立なものを非対称ランダム行列を満たすものを対称ランダム行列、さらにを満たすものを反対称ランダム行列と呼ぶ.

 Mayのランダム群集モデルに対する全種共存解の局所安定条件の解析(May, 1972)は、各要素が正規分布に従う非対称ランダム行列の最大固有値が有限の値をもつこと(Wigner則)を用いたものである.


参考

時田恵一郎"生態学 複雑適応系のプロトタイプ"、特集 ランダム行列の広がり、 数理科学、2007年2月号, No.524, pp.56-60.


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