京都大学基礎物理学研究所ワークショップ

「大自由度進化モデルの力学系研究」

報告書が「物性研究」12月号に掲載されます (November, 2001)


日時 2001年3月12日(月) 午後1時 〜 14日(水)
場所 K202会議室
趣旨

  人間が引き起こしている動植物絶滅の規模は中生代末の恐竜を含む大絶滅に匹敵するという計算があります。

  それにもかかわらず、生物多様性の保全・回復に関する知識は非常に限られたものにとどまっています。
  熱帯雨林や珊瑚礁の例を持ち出すまでもなく、地球を覆い尽くす生命圏に普遍的に見出される生物の多様性は
  いかに形成され、維持されているのでしょうか。また、多数の遺伝子が複雑に相互作用をしながら発現する
 発生の過程では、どのようにして蛋白質や細胞等の多様性を生み出しつつ、個体全体としての自己が安定に保
 たれるのでしょうか。このような、単純な「風が吹けば桶屋が儲かる」的でない「多対多の論理」が支配的な
 システムは、本質的に多数の主体が複雑に相互作用し、分離不能な大自由度系としての記述を要求します。

 このような状況下で、少数自由度系で培われた進化・生態学等に関わる数理生物学等の知識を、どのように大
 自由度系への理解につなげていけばよいのでしょうか。統計物理学等で培われた縮約化は可能でしょうか。そ
 こには少数自由度系とは本質的に異なる原理が見出されるのでしょうか。その原理は、たった3種からなる単
 純な個体群動態の方程式でさえカオスなどの複雑なダイナミクスを生み出す不安定性を内包する事実とどのよ
 うに整合するのでしょうか。

 このような疑問に答えるための数理的・実験的方法論を探るべく、議論を中心とするワークショップを企画します。
 実験生物学、理論生物学、数学、情報理論、経済学、歴史学そして物理学をバックグラウンドを持つ世話人を中心
 に、「複雑性」や「多様性」に関わる様々な研究者を交えた活発な討論を目指します。

プログラム [PS(20KB) , PDF(5KB)]
「物性研究」研究会報告での趣旨説明とプログラム [PS(71KB) , PDF(252KB)]


3月12日

13:00-14:00
 時田恵一郎(阪大)
 「イントロダクションと問題提起」(「多様性のダイナミクス」PS (344KB), PDF (104KB); 11/13/2001受理)
 大自由度進化モデルの歴史を、物理サイドからの寄与を含め概説し、問題提起を行う。

14:00-15:30
 難波利幸(大阪女子大)
 「食物網とカオス:雑食は少数自由度系と大自由度系を結ぶ鍵になるか?」(PS (158KB), PDF (47KB); 8/3/2001受理)

15:30-16:00 Coffee break

16:00-17:00
 向 草世香(九大)
 「生態学における多種共存への数理的アプローチ」 (Word (65KB), PDF (62KB); 5/9/2001受理)
 生態学では、数理モデルを用いてどのように多種共存が議論されてきたの
 かを紹介し、海洋生物を念頭に置いた自身のモデルを発表する。

17:00-18:00
 立川正志(名大)
 「ヘテロクリニック分岐」 (PS (585KB), PDF (704KB); 4/30/2001受理)
 力学系的な話boundary に存在するヘテロクリニックアトラクターと
 相空間内部のリミットサイクルやストレンジアトラクターを、系の
 パラメータ変化による分岐として統一的に記述し、その性質と
 レプリケーター系の相空間の大域的な構造について考察する。

3月13日

9:30-10:30
 橋本康(東大) (PS.bz2 (969KB), PDF (816KB); 6/19/2001受理)
 「混合戦略の導入による新しいアトラクターの出現」
 レプリケータ方程式における変数は種として考えると同時に、ゲーム
 系における戦略としても考えられる。この場合、各種はいくつかの戦
 略の混合戦略として捉えられる。3種からなるレプリケータ系に、新
 種を3戦略の混合戦略として導入した系を解析する。この場合、新種
 は全く新しい戦略を持つわけではなく、相互作用行列のランクは上が
 らないが、系には次元の高い新しいアトラクターが出現する可能性が
 ある。

10:30-11:30
 横山和成(北海道農試) (Wordカラー版(620KB), PDFカラー版(149KB), Wordグレースケール版(610KB); 11/12/2001受理)
 「土壌微生物群集の多様性と動的安定性が生み出す排多的振る舞い」
 複雑で大自由度系である土壌微生物群集は、還元論的分析手法によっては
 記述できない。この様な系を構成者の多様性と動的安定性(常に変化し続
 ける性質)で計ることが出来ること。また、その様な動的安定性を持った
 系では、限られた生物が爆発的に増殖する事を許さない排多的な振る舞い
 をすることが明らかとなった。現在は積極的に系の多様性を操作すること
 による病害微生物の蓄積抑制技術を開発中。

11:30-13:00 Lunch

13:00-14:00
 島田尚(東大) (PS (558KB), PDF (135KB); 6/27/2001受理)
 「多様性を生む生態系のミニマルモデル」
 種間の相互作用項を Lotka-Volterra タイプからSize-Free な形へと変更
 することにより実現された、自己組織的に成長する食物連鎖網のモデルを
 提案する。このモデルの示す統計的性質等についても議論したい。

14:00-15:00
 池上高志(東大) (PS (2.2MB) PDF (664KB); 9/21/2001受理)
 「レプリケータ系で遺伝するもの/しないもの」
 レプリケータ系の動的な状態が、ある種のマクロな操作(系の複製)に対し、
 複製されるものかどうか、を調べた結果の報告。具体的には、時田=安富
 モデルの絶滅モデルに変異を入れたモデルを中心に行なった実験結果。

15:00-15:30 Coffee Break

15:30-16:30
 茶碗谷毅(阪大) (PS (153KB) PDF (396KB); 11/13/2001受理)
 「レプリケーター系における多様性について考える」

16:30- 議論

3月14日

9:30-10:30
 安冨歩(東大)
 「ノイマン=森嶋の経済成長モデルの拡張について」(PS (592KB), PDF (689KB); 5/16/2001受理)
  ノイマンは,結合生産を許す形で生産過程を定式化すれば,資本問題を
  適切に扱いうることを示した.すなわち,

        資本財+原材料+労働 → 古くなった資本財+製品

 と考えれば,「投入行列+労働ベクトル→産出行列」という一本の式で,
 経済全体の生産過程の全リストを表現できる.本報告では,森嶋通夫の
 その後の貢献を含めてノイマン型の経済成長モデルを解説し,イノベー
 ションを含めた形に拡張する方向と,生態系のモデルへと変換する方向の
 可能性を論じる.

10:30-11:30
 藤本仰一(東大)
 「速いダイナミックスから遅いダイナミックスへの情報伝搬」(Gzipped PS (591KB), PDF (1.4MB); 11/6/2001受理)

11:30- 議論

講演者以外の参加者:

西森拓(大阪府大)、湯川諭(東大)


世話人: 池上高志(東大)、茶碗谷毅(阪大)、時田恵一郎(阪大)、安冨歩(東大)、横山和成(北海道農試)
連絡先: 時田恵一郎(Email: tokita@cmc.osaka-u.ac.jp)